思いついたことを書く

会いに行ったのが3月の20何日だったかももう忘れてしまった

1年か2年ぶりにあった祖父はすっかり老けていた。

完全に白髪になっていて、歯が抜けていて顎が細くなり声は聞き取りづらくなっていた。一生懸命話そうとしているのに、8割くらい何を言っているかわからなかった。でもそのとき部屋にいた中では私が1番聞き取れていて、通訳のようなことをした。祖母は祖父の手を握り、温めながら頷いていた。でも何を言っているかは私のほうがわかっていて、それでも1番近くで寄り添っていたのは祖母だった。

ちょっとブラックな冗談を言う、くしゃりと笑う祖父は、私が東京で過ごし、帰省したときにも全く病院へ寄らないうちにすっかりと老けていた。私はショックを受けた。初めに顔を見たとき、顔が引きつっていたのではないかと心配になる。

祖父の息子であり、父の兄であるおじさんは、まだ死んでなくてよかったねとめちゃくちゃな事を言ってすぐに病室を出て待合室へ行った。祖父は祖母になんて言っていたのかを聞き、そしてあいつめという顔をして笑っていた。父の家系の男はみんなして捻くれている。笑わせようとしたのかもしれないけれど。

祖父の言葉を聞き取れない祖母は、時々見当違いな返事をする。そんな祖母を見て祖父は軽口を叩いて笑う。なぜか普通の言葉よりも軽口のほうが聞き取りやすいのがまた面白かった。昔から本当に仲のいい夫婦だったとそのとき思い出した。

今日、祖父が死んだそうだ。母からLINEがきた。私はこれを書こうと思った。

今はこんなに思い出せることも、いつか忘れてしまうから。父の時がそうだったように。